中学生の野球選手にとって、体力と筋力の向上はパフォーマンスを最大限に発揮するために不可欠です。成長期にある中学生には、年齢に適したトレーニングが必要です。本記事では、中学生向けの効果的な筋力トレーニング方法を紹介していきますます!
ウェイトトレーニングの重要性
中学生のウェイトトレーニングには、多くの利点がありますが、適切に行うことが重要です。以下に、中学生がウェイトトレーニングを行う利点を挙げます。
- 筋力の向上:筋力を高めることで、スポーツパフォーマンスが向上します。
- 骨の強化:適度な負荷をかけることで骨密度が高まり、将来的な骨折のリスクを低減します。
- 怪我の予防:筋力と柔軟性が向上することで、怪我のリスクが減ります。
- 自信の向上:トレーニングを通じて自己肯定感が高まり、自信がつきます。
筋力を高めることでスポーツパフォーマンスが向上する理由
筋力を高めることは、スポーツパフォーマンスの向上に直結します。以下にその理由を詳しく説明します。
1. 力の発揮と持久力の向上
瞬発力:筋力が強化されると、短時間で大きな力を発揮する能力、いわゆる瞬発力が向上します。これにより、スタートダッシュや急な方向転換、ジャンプ力などが改善されます。
持久力:筋力の向上は筋肉の耐久性も高め、長時間にわたり高いパフォーマンスを維持する能力を向上させます。これにより、試合の終盤でも安定したプレーが可能になります。
2. パワーの向上
パワー:パワーは力と速度の積で表されます。筋力が強くなることで、動作の速度が速くなり、パワーが増加します。例えば、ピッチャーの投球速度やバッターのスイングスピードが向上します。
3. スキルの精度と安定性の向上
安定したフォーム:筋力が強化されることで、体の安定性が増し、技術的な動作が安定します。これにより、フォームのブレが少なくなり、技術の精度が向上します。
一貫性:安定したフォームと持久力の向上により、試合や練習の中で一貫した高いパフォーマンスを発揮することができます。
4. 怪我の予防
関節と筋肉のサポート:強い筋肉は関節や靭帯をサポートし、衝撃を吸収する役割を果たします。これにより、怪我のリスクが減少します。
バランスと協調性の向上:筋力が強化されると、体のバランスや協調性も向上し、不安定な動きや転倒を防ぎやすくなります。
Kim et al. (2022)によると、
14名の中学野球選手を下記の2つのグループに分けて調べた所
- 1日60分、週2回、合計8週間、ケトルベルを使ったトレーニングを行うグループ(8名)
- 8週間トレーニングは行わないグループ(6名)
トレーニングを行ったグループは、日常生活やスポーツ活動において必要とされる実用的なバランス能力に向上がありました1
5. スピードとアジリティの向上
スピード:筋力が強くなると、各筋肉の収縮速度が速くなり、全体的なスピードが向上します。これにより、ランニング速度や反応速度が改善されます。
アジリティ:アジリティ(敏捷性)は、方向を素早く変える能力を指します。筋力が向上することで、足の動きが迅速かつ正確になり、アジリティが高まります。
6. 精神的な自信の向上
自信:筋力トレーニングによって身体的な能力が向上すると、選手自身の自信も高まります。この自信は、競技における集中力とモチベーションの向上に寄与します。
メンタル強化:筋力トレーニングの過程で目標を達成する経験は、メンタルの強化にもつながります。これにより、試合や練習中のストレスやプレッシャーに対する耐性が強くなります。
中学生のトレーニングの禁忌
避けるべきトレーニング
中学生には避けるべきトレーニングがあります。これらのトレーニングは成長期における身体に過度な負荷をかける可能性があります。
- 過度なウェイトトレーニング:重い重量を扱うトレーニング(例:重量挙げ)は避けるべきです。
- 過度の反復運動:成長板にストレスをかけるような過度の反復運動は避けます。
- 高リスクのトレーニング:高重量のスクワットやデッドリフトは成長期の関節や骨に負担をかけるため、慎重に行う必要があります。
中学生が過度なウェイトトレーニングを避けるべき理由
成長期にある中学生が上記のトレーニングを避けるべき理由には、以下の理由があります。
1. 成長板(骨を伸ばす働きのある軟骨)への影響
成長板(エピフィーゼ):成長期の子供の骨の端にある成長板は、骨の長さの増加に重要な役割を果たします。この成長板はまだ完全に硬化していないため、重い重量を扱うと圧力がかかり、損傷するリスクがあります。
影響:成長板が損傷すると、骨の成長が阻害され、長さの不均衡や変形が生じる可能性があります。特に過度な負荷をかけることで、長期的な健康問題につながることがあります。
※正しいトレーニングは身長の伸びの妨げにはなりません!しかし、成長期の早い時期からの高負荷のトレーニングによって成長板損傷が起きると身長に影響が起きる事はあります。
2. 関節や靭帯への負担
関節や靭帯の発達:中学生の関節や靭帯はまだ完全には発達しておらず、柔軟である一方で、過度な負荷に対しては脆弱です。
影響:重い重量を扱うトレーニングは、関節や靭帯に過剰なストレスをかけ、損傷や炎症を引き起こす可能性があります。これにより、長期的な関節痛や怪我のリスクが増加します。
3. 正しいフォームの維持困難
フォームの重要性:正しいフォームでトレーニングを行うことは、怪我を防ぎ、効果的に筋力を向上させるために重要です。しかし、重い重量を扱うと、フォームが崩れやすくなります。年齢関係なくトレーニング初心者はフォームが崩れやすい上に、まだ筋肉も骨も成長中で柔らかく、また成長とともに日々体が変わる子供は更にフォームが崩れやすいので、高重量は避けましょう。
影響:フォームが崩れることで、不自然な動きが関節や筋肉に過度なストレスを与え、怪我のリスクが高まります。また、効果的な筋力向上も難しくなります。
4. 急激な筋力増加のリスク
筋力と骨・関節のバランス:筋力が急激に増加すると、骨や関節、靭帯がその変化に追いつけず、バランスが崩れる可能性があります。
影響:このバランスの崩れは、特に運動中やスポーツ活動中に怪我を引き起こしやすくなります。例えば、急激な筋力増加に伴う腱や靭帯の負担増加は、捻挫や腱炎などのリスクを高めます。
5. 心理的ストレスとモチベーションの低下
心理的負担:重い重量を扱うトレーニングは、心理的にも大きな負担となることがあります。過度なプレッシャーや失敗に対する恐怖が生じることもあります。
影響:この心理的ストレスは、トレーニングに対するモチベーションの低下や、スポーツ自体への興味を失う原因となることがあります。楽しく安全にトレーニングを続けることが重要です。
ウエイトトレーニングでの注意するポイント
ウェイトトレーニングの注意点
- ウォームアップ:トレーニング前に軽い有酸素運動やストレッチで体を温めること。
- クールダウン:トレーニング後にストレッチを行い、筋肉の緊張をほぐすこと。
- 休息:同じ筋肉群を連続して鍛えることを避け、十分な休息を取ること。
注意するポイント
中学生のトレーニングについては、以下のポイントを考慮することが重要です:
基礎的な身体能力の向上に焦点を当てる:
中学生の時期(13歳から15歳頃)は、骨格や筋力が著しく発達する時期です。この時期に適切なフィジカルトレーニングを行い、筋肉・関節の柔軟性や可動性、身体操作能力、体幹の安定性などの基礎的な身体能力を高めることが重要です。
重さは軽め、もしくは自重から:
トレーニングというと、バーベルやダンベルを持ったウエイトトレーニングをイメージするかもしれませんが、中学生など初めてトレーニングを始める方は、自重トレーニングをメインに始めましょう。
『自重トレーニングはトレーニングといっていいのか?』と思われるかもしれませんが、中学生選手の大半が体重40~50㎏とすると、トレーニング内容によっては40~50㎏に近い重さをコントロールしていることになります。スポーツ中はこの自重をコントロール事なので、まずは自重をコントロールできる事を大切に始めましょう!
シンプルでエラーが起こりにくいメニューから始める:
SNSが発達した今、トレーニング方法はたくさんありますが、学生選手はまずはシンプルで基礎的で、エラーが起こりにくいトレーニングから行っていきましょう。
体幹トレーニングは基礎的なものが多い上、体幹の安定はどの動作をするにも必要です。プランクやデッドバグなど、基礎的なものを大切にして始めましょう。
回復の重要性
中学生は成長期にあるため、怪我予防としてもトレーニング効果UPとしても筋肉の回復に十分な時間が必要です。トレーニング後の十分な回復時間を設けることが重要です。
セット間の休憩時間:
自重トレーニングの場合、セット間の休憩時間は30秒から90秒程度といわれる事も多いですが、トレーニングを始めたばかりの時は1~5分と長い休憩をとる事をお勧めします。
特に、自重トレーニングでも複数の筋群を使うエクササイズ(例:プッシュアップ、スクワットなど)は強度が高いので、現実的に見ても2~3分のレストは必要になってくることが多いです。
レップ数:
- 初心者の場合:
- 8-12回程度のレップ数から始めるのが適切です。
- 正しいフォームの習得と筋肉への適度な刺激から始めましょう。
- 経験者の場合:
- 12-15回程度のレップ数に増やすことができます。
- 体力や技術の向上に応じて、徐々にレップ数を増やしていくことが効果的です。
- 筋持久力向上を目的とする場合:
- 15-20回以上のレップ数を目指すことも可能です。
- ※ただし、正しいフォームを維持できる範囲内で行うことが重要です。
セット数:
初めてトレーニングを行う中学生の場合、1種目あたり1〜2セットから始めるのが適切です。これにより、正しいフォームの習得と身体への負担の調整。トレーニングに慣れてきたら、徐々に2〜3セットへと段階的に増やしていきましょう。
個人差の考慮:
中学生とひとくくりにしても、中学1年生と3年生では体格は全然違いますし、同学年でも成長期のタイミングは違います。また、トレーニング初心者と経験者でも大きく変わってきます。個々の体力や経験に応じて、重さ、回数、セット数、レスト時間は調整する必要があります。これらは経験とともに段階的に変化させていきましょう。
おすすめのトレーニング – ピラティス
現在ピラティスは女性のダイエットや美容効果として大きく取り上げられ、人気が出ておりますが、起源は『リハビリエクササイズ』としては始まっており、人間が持っている体の機能を最大限発揮できるような動作を獲得する事ができます。
Park, Jae Ho, et al.(2020)の研究では、15歳の野球選手8名が1回50分、週3回、8週間、ピラティス(リフォーマーとマット)を行った所、
- 体重UP
- 体幹と左腕の筋量UP
- 体幹と肩の筋力UP
という変化が起きています2
ピラティスは野球選手にとっていい効果として他にも、
体幹の強化:
ピラティスは、体幹部や肩、股関節のインナーマッスルを鍛えることで、姿勢の改善や身体の安定性を向上させます。体幹部のインナーマッスルが姿勢保持の役割をしてくれるので、広背筋などの大きな筋肉が力発揮に集中する事ができ、怪我のリスクを抑えながら出力UPにも繋がります。これは投球や打撃時の安定性向上につながります。
柔軟性と可動域の向上:
ピラティスはインナーマッスルが鍛えられることで関節の安定感が増えるので、関節の可動域を広げ、柔軟性を高めます。これにより、投球フォームの改善や打撃時のスイングの効率化が期待できます。
パフォーマンス向上:
上半身と股関節の連携を改善することで、初動スピードや球速の向上が期待できます。特に、腰と骨盤の正しい動きを習得することで、より効果的な動作が可能になります。
怪我の予防:
インナーマッスルとアウターマッスルのバランスを整えることで、過度な負担を防ぎ、怪我のリスクを軽減します。怪我の大きな要因の1つが、姿勢保持・関節の安定の役割をするインナーマッスルが機能していない結果、力発揮が大きな役割のアウターマッスルが姿勢保持もしながら出力をだすという正反対の役割を限られた筋肉で行ってしまう結果、怪我をしてしまいます。ピラティスでインナーマッスルで姿勢を安定させる能力を高める事で、怪我の予防に繋がります。
特に学生野球選手は腰椎分離症になってしまう選手が多いのですが、体幹部の安定は腰椎分離症のの予防で一番大事な要素。腰椎分離症になると数カ月~1年と長期間、スポーツ活動禁止になってしまうので、体幹部の機能を得られるかどうかはとても大事になってきますね!
また、投球での肩肘の予防にもなります。体幹と前鋸筋の連動が肩関節の安定に繋がり、肩肘の怪我予防として機能。また、胸郭の可動域が肩関節の過度な可動を制限してくれ怪我を予防できるのですが、ピラティスではこの体幹と前鋸筋の連動をしながら胸郭を動かすという動きに長けています。
疲労回復の促進:
ピラティスは呼吸法も重視するため、身体の緊張をほぐし、効果的な休息と疲労回復につながります。吸うときは交感神経が優位になり(戦闘モード)、吐くときは副交感神経が優位になったり(リラックスモード)と、呼吸の仕方一つで自立神経コントロールに影響を与えます。
副交感神経が働けばリラックスとストレスを軽減。血流も上がり、体の資本となる栄養素の提供と疲労物質の排泄を促してくれ、回復力にも繋がります。
身体意識の向上:
ピラティスを通じて、自身の身体の動きや姿勢への意識が高まります。野球はスポーツの中でも繊細な技術がパフォーマンスに大きく関わるため、自身の身体操作力の有無はパフォーマンスに大きく影響。技術向上にも寄与します。
これらの理由から、ピラティスは中学野球選手の総合的な身体能力の向上と怪我の予防に効果的であり、長期的な競技生活の支援につながると考えられます。
ピラティスは、ピラティススタジオにある機械を使ったもののイメージが強いかもしれませんが、マット一つでできるものも多いです。YouTubeでマットピラティスと調べたらたくさん出てきますので、ぜひやってみましょう。
まとめ
中学生の野球選手にとって、効果的な筋力トレーニングはパフォーマンス向上の鍵です。ウェイトトレーニングをバランスよく取り入れることで、総合的なフィジカル能力を向上だけでなく、怪我予防も行えます。この情報を参考に、安全で効果的なトレーニングを実践し、次のステップへと進んでください。
参考
1.Kim, Tae-Yoon, Woo-Young Park, and Yong-Hyun Byun. “Effects of Kettlebell Training on Functional Movement Screen and Balance in Middle School Baseball Players.” Journal of the Korean Applied Science and Technology 39.1 (2022): 96-107.
2.Park, Jae Ho, et al. “Effects of 8-week Pilates training program on hamstring/quadriceps ratio and trunk strength in adolescent baseball players: a pilot case study.” Journal of exercise rehabilitation 16.1 (2020): 88.