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学生野球選手の腰椎分離症 ~起きやすい理由と予防方法~

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腰椎分離症は、発育期の野球選手に多く見られる代表的なスポーツ障害の一つです。これは腰椎の椎関節突起間部に起こる疲労骨折であり、慢性的な腰痛の原因となります。

主な特徴は以下の通りです:

1.発症年齢:

    小学校高学年から大学進学時の成長期に多く発症。

    2.割合:

    2年間に200名の下肢症状のない18歳以下の腰痛患者をMRI撮影したところ、約半分の選手に成長期腰椎分離症あり

    3.発生部位:

    第5腰椎(L5)が最も多く、全体の腰椎分離症の約80%を占めます。次いで第4腰椎(L4)にも発生します5

    4.症状: 腰痛が主な症状で、特に体幹を反る動作(伸展)で痛みが強くなります

    • 野球は片方だけ腰をひねる事が多い為、片側の分離症が多い4
    • ひねる方向と反対側に負荷がかかりやすい4

    5.分類分け:CT検査により初期・進行期・終末期に分類1

    • 初期の状態でスポーツ活動を継続すると、骨癒合の可能性が低い進行期~終末期に移行しやすくなる3

    6.治療:スポーツの完全中止と装具療法による保存治療3

    • 固定具はCTによる骨病期に応じて軟性or硬性装具
    • 期間は2~3カ月から12カ月前後と病期でかなり幅がある
    • 成長期のこの時期に安静しないと骨癒合が得られなくなる
    • 下肢筋群の柔軟性の改善として低負荷での運動療法

    数カ月以上、スポーツ活動を中止し固定を続けるというのは、耐えがたい状態ではありますが、この数カ月をスポーツ活動続けた結果骨癒合の可能性が低い状態まで悪化してしまうと、選手生命が終わってしまう可能性が高くなることはもちろん、日常生活にも支障が出てきます。

    しっかり安静にし、骨癒合を目指しましょう。

    原因

    若年期の腰椎分離症は、様々な原因によって起こりますが、下記の内容が大きな原因となる事が多いです。

    成長期の特性:成長期の脊椎、特に腰椎の椎弓部は骨がまだ未熟で軟骨部分も多く脆弱

    反復的な動作:野球の投球動作や打撃動作による、繰り返される腰椎への伸展や回旋ストレス

    • 練習(負荷)のコントロールと休養(回復)のバランスが重要になってきます。

    身体の柔軟性:

    • 柔軟性の低下と腰椎分離症のリスク:
      • 柔軟性の低下、特にハムストリングスや腰部の柔軟性が不足していると、腰椎への負担が増加し、腰椎分離症のリスクが高まる可能性があり。
    • 過度の柔軟性と不安定性:
      • 一方で、過度の柔軟性も問題となります。特に腰椎の過度の可動性は、脊椎の不安定性を引き起こし、腰椎分離症のリスクを高める可能性があります。
    • バランスの重要性:
      • 適度な柔軟性と筋力のバランスが重要です。柔軟性だけでなく、体幹の筋力強化も腰椎分離症の予防に重要な役割を果たします。
      • 筋力は固めるような動きや出力に繋がるような強さを意識しすぎず、末端が動いている時に体幹部がしなやかに安定している状態が理想
    • スポーツ特異的な柔軟性:
      • 野球では、特に骨盤~下肢が安定した状態での胸椎の可動性が腰椎の負担を減らすのに重要になります。特にスイングで『腰を回せ!』という表現がありますが、腰椎の回旋可動域はそもそもかなり小さく、胸椎の可動域が重要になってきます。
    • 腰部に負荷が強くなるフォーム(技術)
      • 腰椎伸展や回旋ストレスが一番の要因です。特に両方が同時に起きた時の負荷が一番影響します。野球という特性上、伸展・回旋を使ったスポーツですが、この動作が過度にならないよう注意していきましょう。
      • ※詳細は次の特徴的な所見で見ていきます。

    これらの中の一つが原因で受傷してしまうというよりは、複合的な理由である事が多いです。成長期特有の、「骨が未熟」という所はコントロールできない所ですので、

    ✅練習量のコントロールやリカバリー

    ✅負荷が強くなりすぎないような投球・打撃フォームの見直し

    ✅腰に負荷が集中しないような体づくり

    といったコントロールできるところに目を向けて予防していきましょう。

    特徴的な所見

    Teruya, Shotaro, et al.(2024)の最新の論文をご紹介します。

    2014年4月-2021年3月までに腰椎分離症を診断された小学生~高校生野球選手85人

    投手:30人   野手:55人

    ※10人は両側分離症もしくは複数の腰椎で分離症あり

    を対象にした研究では、

    • 投手の場合、投球する側とは反対側でより頻繁に腰椎分離症が発生
    • 野手の場合、投球側・打撃側ともに発生部位に左右の偏りはなかった

    との傾向が出ています。

    以下のテーブルは、こちらの論文で出ている投手と野手の投球側と非投球側のデータをまとめたものです。

    ポジション投球側非投球側p-value
    投手16320.029*
    野手44540.363
    合計60860.038*
    *有意差あり
    Teruya, Shotaro, et al. “Characteristics of Lumbar Spondylolysis in Adolescent Baseball Players: Relationship between the Laterality of Lumbar Spondylolysis and the Throwing or Batting Side.” Asian Spine Journal 18.2 (2024): 260.

    この結果の要因と考察

    投手

    • 投球動作ではコッキング期から加速期にかけて上半身より先に下半身でひねり動作開始(右投げなら腰椎右回旋となる)
    • 腰椎への負荷は、ひねる方向と反対側にかかりやすい
    • 右投手の場合、右回旋と伸展が投球中に同時に起きるから、左腰椎に分離症が起きやすいのでは?

    野手

    • 右打者の場合、左へひねる際に右側に負荷が集中する
    • スイングのフォロースルー期で負荷は最も高くなるが、ひねりの強度自体は投球ほどではない

    さらなる研究が必要かと思いますが、面白い結果でありますね!

    私が関わらせていただいたプロ野球選手で、学生時代に腰椎分離症になった選手は左投手で右腰椎の分離症を患っていたので、論文の傾向と同じでした!

    予防(再受傷含む)ために必要な機能

    では、腰椎分離症を防ぐにはどうしたらいいのか?という話になってきます。

    上記に示したように、若年期の腰椎分離症は疲労骨折のため、負荷の強度、頻度、回復が大きな割合を示していますが、同じ練習量(頻度)と強度でも、腰椎への負荷をできる限り小さくするということが、トレーニングやストレッチなどの日々の取り組みでできる事です!

    ここでは、ストレッチ2つ・体幹部を安定させるエクササイズを2つご紹介していきます!

    基本的には、何事にもストレッチ(可動域)→エクササイズ(安定)と、

    ストレッチで作り出した可動域を、固めずも安定しながらしなやかに使えるようにする。

    という順番で行っていきましょう!

    Downward Dog

    まずは、ハムストリングの柔軟性と脊柱の可動性を連動させたDownward dogです。

    ハムストリングが固くなると骨盤の動きに制限が起きてしまい、骨盤で出したい可動域までもを腰部で代償して出すことになります。その結果、腰部への負荷が大きくなってしまいケガに繋がりますので、脊柱・骨盤と一緒にハムストリングのストレッチができるDownward dogを紹介します!

    やり方

    1. スタートポジション:
      • 四つん這いの姿勢から始めます。手は肩の真下、膝は腰の真下に置きます。
    2. 手の位置:
      • 手のひらをしっかりと床に押し付け、指を広げて安定させます。
    3. 膝を持ち上げる:
      • 息を吸いながら膝を床から持ち上げ、腰を天井に向かって引き上げます。
    4. 体の形:
      • 体を逆V字型にします。腕と背中を一直線にし、腰を高く持ち上げます。
    5. 足の位置:
      • 足は腰幅に開き、かかとを床に向かって押し下げます。ただし、かかとが床に届かなくても問題ありません。
    6. 頭の位置:
      • 頭は腕の間にリラックスさせ、首を長く保ちます。
    7. 呼吸:
      • 深くゆっくりと呼吸を続け、ポーズを数呼吸保持します。
    8. 終了:
      • 息を吐きながら膝を床に戻し、四つん這いの姿勢に戻ります。

    注意点

    1. 背中のアライメント:
      • 背中が丸まらないように注意し、常にまっすぐに保ちます。
    2. 肩の位置:
      • 肩が耳に近づかないように、肩甲骨を背中に引き下げます。
    3. 手首の負担:
      • 手首に過度な負担がかからないように、手のひら全体で体重を支えます。必要に応じて手首の下にタオルを敷くと良いでしょう。
    4. 膝の柔軟性:
      • ハムストリングスが硬い場合は、膝を軽く曲げても構いません。重要なのは背中をまっすぐに保つことです。
    5. 足の位置:
      • かかとが床に届かなくても無理に押し下げないようにします。時間とともに柔軟性が向上します。
    6. 呼吸:
      • 呼吸を止めず、リラックスした状態で深く呼吸を続けます。
    7. 痛みの回避:
      • 痛みや不快感を感じた場合は、すぐにポーズを中止し、無理をしないようにします。

    Cat Cow

    Cat Cowは、脊柱の柔軟性を高め、腰痛予防や姿勢改善に効果的です。

    胸椎~腰椎~骨盤までを動かすタイミングも含めて各背骨をコントロールしていきます!

    ※動画以上に、腰回りの屈曲(丸まり)がもう少しでるとなお良いです。

    やり方

    1. スタートポジション:
      • 四つん這いの姿勢から始めます。手は肩の真下、膝は腰の真下に置きます。
    2. Catポーズ:
      • 息を吐きながら、背中を丸めて天井に向かって引き上げます。頭を下げ、尾骨を内側に巻き込みます。
      • このとき、肩甲骨を広げ、首をリラックスさせます。
    3. Cowポーズ:
      • 息を吸いながら、背中を反らせて胸を前に突き出します。頭を上げ、尾骨を天井に向かって持ち上げます。
      • このとき、肩甲骨を引き寄せ、首を伸ばします。
    4. 繰り返し:
      • CatポーズとCowポーズを交互に繰り返します。動作はゆっくりと行い、呼吸に合わせて動きます。

    注意点

    1. 背中のアライメント:
      • 背中を丸めるとき(Catポーズ)と反らせるとき(Cowポーズ)の動作をしっかりと区別し、正しいフォームを維持します。
    2. 肩の位置:
      • 肩が耳に近づかないように、肩甲骨を背中に引き下げます。
    3. 手首の負担:
      • 手首に過度な負担がかからないように、手のひら全体で体重を支えます。必要に応じて手首の下にタオルを敷くと良いでしょう。
    4. 呼吸:
      • 呼吸を止めず、リラックスした状態で深く呼吸を続けます。Catポーズで息を吐き、Cowポーズで息を吸います。
    5. 痛みの回避:
      • 痛みや不快感を感じた場合は、すぐにポーズを中止し、無理をしないようにします。
    6. 首の位置:
      • 首を過度に反らせたり、丸めたりしないように注意します。自然な位置を保ちます。
    7. 動作の範囲:
      • 動作の範囲は無理のない範囲で行い、柔軟性が向上するにつれて徐々に広げていきます。

    正しいフォームと注意点を守りながら実践することが重要です。

    応用編

    Cat Cowの腰椎・胸椎の屈曲伸展の動作の中で、体幹側屈も入れながら、脊柱でしなやかに円を描くように動かしていきます!

    この時の注意点としては、

    ・骨盤や肩のラインが左右に動いた入り逃げたりしないようにする

    骨盤や肩が動いてしまうと、安定させたい所のコントロールができていない(不安定)という事です。

    動いてほしい部分(ここでいう脊椎)の上下の関節が安定していることで、

    ・出したい関節の可動域が出るということ

    ・バランスを保っている(安定している)

    骨盤・肩が動くと全体的に可動域が出ているように見えますが、本来動かしたい所が動いていないということなので、

    最初は可動域が小さくても、安定するところと動いている所のメリハリを意識して体を使っていきましょう!

    Dead Bug

    上記2つで可動域を意識してきましたので、次はその可動域を制御(安定)できるようにしていきましょう!

    腰椎分離症の受傷要因の一つとして、腰部の運動制御が影響しているといわれています6

    発育期の腰椎分離症患者は、腰椎分離症がない子供と比べて腰椎-骨盤の運動制御能力が不十分である事が多いことから、腰椎 – 骨盤の運動制御能力を上げていくことが、腰椎分離症の予防の一つとなります(再受傷の予防も含む)6

    その運動制御に繋がるエクササイズの一つが、Dead Bugです。

    やり方

    • 仰向けに寝て、背中を床にぴったりつけます。
    • 腕を天井に向かって真っすぐ伸ばし、膝と股関節を90度に曲げます。
    • コア(体幹)を常にしっかり締めた状態を維持します。
      • 腹部はしなやかな状態を保ち、固めない
    • 左腕と右脚を同時に下ろしていきますが、床に触れる直前で止めます。
    • 反対側の腕と脚は動かさず、元の位置を保ちます。
    • ゆっくりと元の位置に戻します。

    注意点

    • 動作中は呼吸を止めないよう注意します。
      • 呼吸は止めず、伸ばす・元に戻すという動作の時は吐きながら
    • 初心者の場合、腕だけ、または脚だけの動作から始めても構いません。
    • 動作の範囲は無理のない範囲で行い、痛みや不快感を感じたら中止します。
    • 1回の動作で両側を行い、10〜12回を1-3セット行うことが推奨されています。-
    • 質を重視し、正しいフォームを維持できる範囲内で行うことが重要です。
    • 腰痛や坐骨神経痛がある場合は、医療専門家に相談してから行うべきです。

    Bird Dog

    Dead Bugは腹部(体幹前側)を使っての運動制御するエクササイズでした!

    Bird Dogは背部(体幹背面)を使って腰椎伸展のコントロールをしていきましょう。

    • 四つん這いの姿勢から始めます。手は肩の真下、膝は腰の真下に置きます。
    • 背中をまっすぐに保ち、腹部を引き締めます。
    • 右腕を前方に伸ばし、同時に左脚を後方に伸ばします。
    • 伸ばした腕と脚が床と平行になるようにします。
    • この姿勢を5秒間保持します。
    • ゆっくりと元の位置に戻ります。
    • 反対側(左腕と右脚)も同様に行います。

    注意点:

    • 背中が反らないよう、常に腹部を引き締めた状態を維持します。
    • 腰が回転したり傾いたりしないよう注意します。
    • 頭は常に背中と一直線に保ちます。
    • 呼吸を止めないよう意識します。
    • 動作はゆっくりと制御しながら行います。
    • 痛みや不快感を感じた場合は即座に中止します。
    • 初心者の場合、腕か脚のどちらか一方だけを動かすところから始めても構いません。
    • 1セット10〜15回程度を目安に、1-3セット行うことが推奨されます。

    エクササイズまとめ

    上記のストレッチ・エクササイズはすべていいものですが、既に腰部に症状を抱えている人には逆効果になる事があります。既存の腰痛や肩の問題がある場合は、エクササイズを始める前に医療専門家にこれらの動作を行ってよいか相談してから開始することをお勧めします

    まとめ

    腰椎分離症は発育期の野球選手に多く見られるスポーツ障害で、特に第5腰椎での発生が多いです。原因として成長期の脆弱な骨や反復的な運動が挙げられ、特に腰椎の伸展・回旋が影響してきます。

    初期症状としては腰痛があり、受傷後の骨癒合には早期発見・早期スポーツの完全中止・装具療法が必要です。予防と改善には適度な柔軟性と筋力のバランスが重要で、ストレッチやエクササイズが効果的。特に若年期では、運動制御を向上させることが大切です。

    こちらで紹介しているストレッチ・エクササイズは一般的にわかりやすく行いやすいというだけで、これらがすべてでもなければ、これをやっていれば絶対大丈夫!というわけではありません。

    正しい行い方、個々の身体の特性に合ったメニューの選択などはプロに相談する事が一番です!

    疑問やご相談がございましたら、気兼ねなくお尋ねくださいませ!

    参照

    1.Fujii, K., et al. “Union of defects in the pars interarticularis of the lumbar spine in children and adolescents: the radiological outcome after conservative treatment.” The Journal of Bone & Joint Surgery British Volume 86.2 (2004): 225-231.

    2.Kobayashi, Atsushi, et al. “Diagnosis of radiographically occult lumbar spondylolysis in young athletes by magnetic resonance imaging.” The American journal of sports medicine 41.1 (2013): 169-176.

    3.Sairyo, K., T. Sakai, and N. Yasui. “Conservative treatment of lumbar spondylolysis in childhood and adolescence: the radiological signs which predict healing.” The Journal of Bone & Joint Surgery British Volume 91.2 (2009): 206-209.

    4.Teruya, Shotaro, et al. “Characteristics of Lumbar Spondylolysis in Adolescent Baseball Players: Relationship between the Laterality of Lumbar Spondylolysis and the Throwing or Batting Side.” Asian Spine Journal 18.2 (2024): 260.

    5.高田クリニック. (2023). 腰椎すべり症について. 高田クリニック. https://takedaclinic.jp/2023/04/10/lumbar-spondylosis/

    6.飛田広大, et al. “発育期の腰椎分離症に対する Sahrmann Core Stability Test による評価.” 日臨スポーツ医会誌 30.1 (2022): 109.

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