論文野球

プロ野球投手(MLB,MiLB)の肩水平外転&水平内転の角度と肩肘の負荷との関連性について

論文
この記事は約6分で読めます。

今回は、

The relationship between maximum shoulder horizontal abduction and adduction on peak shoulder kinetics in professional pitchers.

の論文を読み解いていきます!

導入

野球の投球動作に関連する上肢の運動学は、肩関節の怪我のリスク増加と関連しており、外転、水平外転、外旋が肩の損傷リスク増加に関係していることが示唆されています。

特に、水平外転の増加は選手の年齢層関係なく肩関節に悪影響を及ぼすと複数の研究で報告で指摘されています。

※以下ではわかりやすいように、肩水平外転の文字を細文字の青色肩水平内転の文字を細文字の赤色で分けていく。

Takagi et al. (2014)1 とTanaka et al. (2018)2によると、日本の高校野球投手を対象とした研究では、ボールリリース時に水平外転が増加する姿勢をとると、肩前方のせん断力が増加。逆に、水平内転の量を最小限に抑えると、腕と肩甲上腕関節の分離を引き起こす牽引力が軽減すると報告されています。この牽引力は肩甲上腕関節の病理に多くの意味を持ち、関節唇損傷やローテーターカフの腱板損傷に関連しています。

これまでの研究で、競技レベルが上がるにつれて投球中の上肢の運動力学(肩の牽引力や肘の内反トルクなど)が増加することが明らかになっています。運動力学の増加は、肩の負傷リスクとの関連性があるので、投球腕にかかる力とトルクを評価することは怪我予防の観点においてとても重要です

方法

肩の水平内転および外転は、上半身の横断面において、投球する上腕と上体のベクトルとの間の角度として定義。『ゼロポジション』または中立点は、肩が90°外転したとき(図1)。

図1

肩がこのゼロポイントより前方に移動した場合、これは水平内転と定義され、

肩がゼロポイントより後方に移動した場合、これは水平外転と定義されています。

この研究において、投球は以下の5つのフェーズに分けて説明されていて、

  • 前足着地(フットコンタクト)
  • 最大水平外転
  • 最大外旋
  • 最大水平内転
  • ボールリリース(手首が肘を前方に通過してから 0.01 秒後の瞬間)

この研究においての最大&最小の水平内転は、フットコンタクト ~ ボールリリースの動作内での最大値と最小値を測定しています。

※肩の最大水平外転は投球の早い段階で達成され、肩の最大水平内転はもっと遅く、ボールリリースの近くで起こる(図2)

図2

比較においてのグループ分けの仕方

この研究には合計339人のプロ投手が含まれました(21.9 ± 2.1歳、189.7 ± 5.7 cm、94.8 ± 9.5 kg)。

投手は、最大水平内転最大水平外転に基づいて、四分位(Q1~Q4)に細分化されています。

Q1:最大の外転/内転の四分位が最も小さい投手

Q4:最大外転/内転の四分位が最も大きい投手

最大水平外転と最大水平内転の 4 つの四分位間の比較には、

  • 球速
  • 肩の外旋
  • 肘の屈曲
  • 6 つの肩の運動変数

上記の項目を比較しています。

結果

前脚着地時は、投手の肩は水平に外転していた(38 ± 12°)で、平均最大肩水平外転(44 ± 13°)は前脚着地時以降に起きた。

その後、投手は肩を最大外旋(8 ± 8°)で水平内転に動かし始め、最大内転(10 ± 9°)に達した。ボールリリース時の肩は、中立位置(2 ± 9°)にあった(図1を参照)。

最大水平外転の角度と比較

投手を肩の最大水平外転角度に基づいて四分位(Q1~Q4)に細分すると(表1)、

✅肩内転トルク(P < 0.01)

✅肩水平内転トルク(P < 0.01)

✅肩前方への力(P < 0.01)

上記の運動力学は、水平外転の増加とともに減少した。

また、最大水平外転が大きい投手ほど、最大水平外転時の肩外旋角度は減少していた。

表1. ※有意性ありの関係性 (a) Q1 & Q2, (b) Q1 & Q3, (c) Q1 & Q4, (d) Q2 & Q3, (e) Q2 & Q4, (f) Q3 & Q4

最大水平内転の角度と比較

投手を肩の最大水平内転角度に基づいて、四分位(Q1~Q4)に分割すると(表2)

肩の最大水平内転角度が一番大きいグループ(Q4)は、小さいグループ(Q1&Q2)と比較して球速が有意に遅かった

最大水平内転の角度が小さい投手の方が角度が大きい投手と比べて、球速が速かった。

最大水平内転の角度が一番小さいグループ(Q1)は、他のグループと比較して(Q2、Q3、Q4)肩の前方への力が優位的に少なかった。Q2,Q3,Q4間での比較では、有意的な差はなかったものの、水平内転の角度が大きいグループほど、肩前方への力は小さい傾向がある。

表2. ※有意性ありの関係性 (a) Q1 & Q2, (b) Q1 & Q3, (c) Q1 & Q4, (d) Q2 & Q3, (e) Q2 & Q4, (f) Q3 & Q4

水平内・外転角度と運動力学との関連性について

肩水平内転の四分位を元に、水平内転・水平外転の角度と上肢の運動力学値(力やトルク)&球速との関連性を分析(表3)。

表3. *有意差あり(P < 0.05)

最大水平外転と運動力学

最大水平外転の角度と球速との間には有意な関係はなし

一方で、最大肩水平外転10°増加する毎に、

肩前方への力は2.2%BW減少

肩内転トルクは0.5%BW × 身長(BH)減少

肩水平内転トルクは0.4%BW × BH減少

最大水平外転のタイミングと運動値および球速との間には有意な関係はなし。

最大水平内転と運動力学

最大水平内転10 度増加する毎に、

肩前方への力は 2%BW 増加

球速 1.2 m/s (2.7 MPH) 減少

また、最大水平内転達成が 10 ms 遅れる毎に、

肩前方への力は 1.3%BW 減少

肩水平内転トルクは 0.3%BW × BH 増加

上記から、最大水平内転の角度は、肩前方への力と球速の2つと関連性あり。最大水平内転のタイミングは、肩前方への力と肩水平内転トルクとの関連性あり。

まとめ

肩の最大水平内転の角度が最も小さいプロの投手は、球速が速く肩前方にかかる力は小さい。

肩の最大水平外転の角度が最も小さい投手は、肩前方にかかる力、肩内転トルク、肩水平内転トルクが増加

肩の最大水平外転大きい投手は、投球腕にかかる力学が小さい。

この研究結果からは、球速を最大化した上(パフォーマンスUPした上)で、肩前方にかかる力(怪我のリスク)を最小限に抑えるためには、プロ野球選手は投球の後半での肩水平内転を減らすことがカギになるかもしれません!

参照

Manzi, Joseph E., et al. “The relationship between maximum shoulder horizontal abduction and adduction on peak shoulder kinetics in professional pitchers.” Sports health 15.4 (2023): 592-598.

  1. Takagi Y, Oi T, Tanaka H, et al. Increased horizontal shoulder abduction is associated with an increase in shoulder joint load in baseball pitching. J Shoulder Elb Surg. 2014;23:1757-1762.
    ↩︎
  2. Tanaka H, Hayashi T, Inui H, et al. Estimation of shoulder behavior from the viewpoint of minimized shoulder joint load among adolescent baseball pitchers. Am J Sports Med. 2018;46:3007-3013. ↩︎
PAGE TOP